2017年10月02日

勘違いに注意・避妊去勢のデメリット

日本語に訳して説明されているサイトを貶すようで腰が引けながら、、
わざわざ英語の長い論文を読みこんで厄介な病名も調べ、
自サイトにその紹介をされている人々と根底の原動力は同じつもりです。
悪意はまったくありません。視点は常に公平を心がけています。

和訳されているサイト管理者さんは不妊手術が悪いとはどこも言ってませんが、
そう誤解してしまう読者が発生してしまい、たまにうちに流れてきます。
せっかく縁あって流れてきてくれたのなら変に意固地になってないで、
公平な目線で自分の推薦論文を読み直してもう一度コメントくれりゃいいのに。

なのですがまあいいや。
先日当ブログにいただいたコメント内で貼られたURLをまずは再掲します。
http://www.dogsnaturallymagazine.com/three-reasons-to-reconsider-spayneuter/

英語で長文です。
ワタクシはまずは最初から最後まで読みます。読めと言われればまずは素直に。
で、読んで最初に浮かんだ感想は、これは元は論文形式だということです。
論文形式ならば「参考文献」がほぼ必ずあるものですがこのサイトでは省略されています。
この前の「後ろ向き研究」のようなことがこの話題にはつきものなので結構重要なのですが。

というわけで元論文を探そうと検索したら最初の1ページに和訳されたブログが出てきまして。
拝見した瞬間、和訳で太字になっている股関節形成不全と十字靭帯断裂を含む関節疾患が、
不妊手術のせいで起きる病気だと信じ込んだ人がうちにコメントをしたのだなと思えました。
(その後レトロスペクティブの訳しかたがPCのページごとの翻訳機能を使ったものだと感づいたので、高い確率で和訳サイトの表面情報を鵜呑みにしちゃった被害者さんと確信しました)
その人だって悪気なんかない読者さんだと感じていますよもちろん。

それからリンパ腫(リンパ肉腫と訳されているかも)、
血管肉腫、
肥満細胞腫、
という犬に発症が多い3種の腫瘍が並び、
「不妊手術した犬がたくさんこのがんになった、未不妊はちょっとしか罹らなかった」(大意)
という方向に文章は結ばれています。
不妊手術した犬がたくさん認知障害、行動障害、甲状腺機能の低下を患い、
不妊手術なんかしない犬がそういう病気に罹る確率はとても低い!とも書かれています。

股関節形成不全はもう説明疲れを起こすほど今までいろんな所で書いていますが、
たくさんの勉強熱心な飼い主さんたちが調べたり考えたりした結果、
生後7週などのあまりにも小さいうちに生殖器を除去すると悪影響が高そうだけど、
小型犬なら1歳、大型犬でも2歳には骨の成長は完全に終わるので、
成長が終わった後なら発症は不妊手術の影響があるとは思えない、が主流です。大まかに。

前十字靭帯断裂はこれが遺伝病だという事実が単に広まっていません。
ヒトでは事故で起こる断裂が多いからそのせいだとは思いますが。
ちなみにワタクシはこれも股関節形成不全も骨格等の遺伝の問題と捉えていますので、
避妊去勢は関係ない、というのが現時点での結論。

で、こういう表現は今までに他でもたまにありますが、失礼ながら要はこういうことですよね。
(ワタクシ的に有名なのが例のローラさんの論文)
第一に、ほぼ全部遺伝性疾患のリストに載っている病気。(訳者はそこまで確認していない)
次に、本文で不妊が推奨されていても訳されない、後ろ向き研究に関する記述なども詳細は和訳されないこと。(なので「よく読んでない」とコメントします)
最後に、つまり不妊手術をしなくていい理由の根拠がほしい人がこのテの英文を持ち寄る。
Always. Every time. Forever. いつも。

表面だけ見て不妊手術のせいで発生する病気があるに違いないと勘違いで思い込んで。
犬ではリンパ腫と血管肉腫と肥満細胞腫が遺伝性疾患と判明している例が多数ありますが、
そのことについてはどうお考えなのですか?って聞きたいよ。
ある病気の発症に強く作用する遺伝子の存在は見ざる聞かざる調べざるで、
性ホルモンが減ったときにだけその遺伝子が活躍するとでも思うのか???
どんな機序やねん
なんというアホな説をデメリットと信じているのか早く気づけばいいのに。



もう1つ。「避妊去勢のデメリット」検索で1ページめに出るサイトで、
上記の例と同じくらい和訳が完璧なものだから、
そのサイトの表面の情報だけを見て未不妊万歳って思い込んだ人が最低1人発生しています。

元サイトはこれ。英文の長文。
https://bmcvetres.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12917-016-0911-5

この表も上記からの引用です。
Table 2.jpg


表をまるごと翻訳してみました。
Table 2 訳.jpg


翻訳中にちょっとだけ興味深い現象が起こったのでお知らせします。
この表の「病名」は全部で12個ですね。
ワタクシは上から11個めまで辞書を見ずに訳せました。
つまり上から11個めまでは犬の遺伝病のリストに載っている遺伝性疾患ってことです。
最後の12個めだけがわからなかったのでWeblio 翻訳を使いました。
Pyometra (PYO) ⇔ 子宮蓄膿症ですってよ。

それから、統計学に明るい人なんかには当然のことでしょうが、
この表を見るときに気をつけたほうがいいとワタクシが思うポイントは、
まずは「Percent in study population」。
おそらく誤解されやすい部分だと感じたので直訳せずあえて「調査全犬中の有病率」にしました。
犬全体のパーセンテージではなくて「その調査をしたときの全体」に過ぎないですからね。
元サイトの「表1」に出ているように単に「この犬たちの来院理由の病名(診断名)を確認した」が分母になっています。保管されているカルテを見たんでしょう。

犬の不妊手術に関する後ろ向き研究を見せていただく際のだいじな注意点、
100頭なら100頭の子犬の飼い主さんを選んでから不妊手術や病気発症を追うのか、
病気になった成犬の不妊手術歴をチェックするのか、この違いは非常に重要ですよね。

一番上の「アトピー性皮膚炎」を例にとると、パッと見はとんでもない結果に思えます。
メスは避妊してしまうと発症率が9〜10倍になるかのような印象。「83」と「745」。
オスの数も含めた全体の「有病率が1.82%」です。
『犬全体では100頭に1.82頭の割合でアトピー性皮膚炎に罹るが、
避妊をすると発症率が跳ね上がる!?』
という誤解を招きかねないって話をしています。
この調査はカリフォルニア大学デイビス校の獣医学教育病院の記録ですから信憑性もあるし。

でも、よーく読んでみると、そこの病院に来た患畜犬が分母なんです。またもや。
そこの病院に来ないけどできれば一緒に調査したかった犬が100頭か100万頭かは不明。
患畜犬の頭数は90,090頭とかなり多いから公平な調査に感じられる、
けどよく読めば病院に来てくれた犬のプロフィールアンケートだったわけで。


もうどう〆たらいいのかわからなくなってきた大長編。
犬の避妊去勢のデメリット情報を他にご存知のかた、
いらっしゃいましたらどうぞ教えてくださいな。これでいいか。
あと、よく嫁。




犬ランキング


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2箇所の日本語のサイトを改めて晒す気はないんです。正直な所めんどくさいから。
でも1箇所めはコメント欄にURLを載せていますからそれ見りゃわかります。
2箇所めは子犬のへやさんです。
子犬のへやさんはとても充実した素晴らしいサイトです。

ただ、自サイトが常に検索上位にくるよう相当力を入れておいでなので、
相応の責任もついて回るもの、、っとワタクシは個人的に感じます。
翻訳内容は正しいし無責任に未不妊をヨシと書いたわけではない、
でも後ろ向き研究関連の記述はなく、不妊手術のせいで免疫系の病気発症リスクが高くなるのは事実だと書いてしまわれました。
>「逆に発症リスクを高めているという事実が明らかになりました」

間違いじゃないし嘘でもないんです。元サイトにもその記述はある。
だけど。

ワタクシの目には「ある部分の説明が省かれただけ」ですが、
未不妊万歳の理由を探している人にとっては勘違いを助長させるマイナス情報、、、、
になってしまっているのではないでしょうか。
参考 http://www.koinuno-heya.com/news/2016/december/19.html

おそらくね、「リスク」というカタカナ英語が、本来の意味と少しズレた使いかたをしていることに、
一般人は気づきにくいのだと思います。
「メタボ」までひどくはなくても誤認識に共通点があるんじゃないかと思ってます。

posted by あきこ at 18:26 | Comment(0) | 不妊処置−避妊と去勢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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